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* 128N戦記

日時: 2009/08/02 01:00 メンテ
名前: 小豆龍

【順番】敬称は略させていただきます。

>>1 小豆龍 → >>2 一見 → >>3 ハイドラ → >>4 p太 → >>5 ざ・T(♂) → >>7 MATU → >>8 各国マスメディア陣 → >>9小豆龍


(以降予定)
一番【ブラウンレンジャー】 小豆龍  『描写の都合上、一番手だと助かります』
二番【レッドライダー】   ハイドラ  『いっさんよりも手前だと少し都合がいいかもしれないと』
三番【ブラックサンダー】  ざ・T(♂) 『ぶっちゃけ二話で投稿する分はもう出来ちゃってマス。順番は何時でもおk』
四番【オレンジエスパー】  p太   『体調不良から復帰できる気配が無いので遅れるかもしれん』
五番【ミスターミラージュ】 一見   『気長に待って』

遊花さんは4,5番目を希望中。

(以降予定)はいつでも変更可能です。気軽にお声をおかけください。


【基本的なこと】
・参加する人は、128M戦記は団体競技である事を念頭においてください。
・設定は、胸に秘めるか設定スレに書き込むかしてください。
・ストーリーの進め方、伏線など、ストーリー上の問題については各自で話し合ったり話し合わなかったりしてください。
・書き込みの順番に関する問題等も、各自で話し合ってください。
・感想は感想スレにお願いします。
・順番についての話し合いは一方通行にしないようにしましょう。
 
Page: [1]
* 128N戦記 〜プロローグ『壊れる平和』〜 ( No.1 )
日時: 2009/08/02 01:04 メンテ
名前: 小豆龍

 それはある日の出来事でした。
「ここは我々が制圧した! 全員武器を捨て、大人しく投降しろ! 怪しい動きをしたものはこの場で撃ち殺す!!」

         <

 時折、涼しげな風が吹く晴れの日です。小豆村の北部、青豆邑で、小豆村の三大祭の一つである、青豆気球祭(ぶるぅびぃん・ばるぅんふぇすてぃばる)が開催されました。
 会場は、小豆大樹海と青豆邑の境となっているインゲン豆連峰の麓です。広大な扇状地が広がっていて、背の低い草が一面を覆っています。木が一本もないので、気球を飛ばすにはうってつけなのです。
 からふるな気球が沢山浮かんでいます。
 このお祭りを見るために、色々な国から色々な人がやって来ます。西にあるぴぃ太共和国さんからやってきた、水素並みに色々と軽い精霊さんが、気球に乗った女の人をかたっぱしから口説き始めたりしています。でも頭も軽いのか、ついさっき口説いて振られた人に初対面のように接したり、男性を口説こうとしていたり支離滅裂です。しまいには燃焼装置に飛び込んで派手に火花を散らしたりして、大変迷惑です。
 わたしを口説こうとした精霊さんもいました。兄がすったマッチの火で燃え尽きてしまいましたが。
お隣の国の一見公国の軍人さんたちが、とってもとっても大きな飛行船でこのお祭りに参加しています。これは歴史始まって以来の事で、邑長(そんちょう)さんも緊張しているようです。飛行船はわたしたちのどの気球よりもはるかに大きく、わたしたちを驚かしました。軍人さんたちの飛行船は、わたしたちの気球よりも高い場所に浮かんでいるのですが、それでも何倍も大きいのです。
 わたしと兄も、放心したように飛行船を見つめていました。
近くに、軍人さんたちのテントが張られています。わたしは一見公国さんのお話が聞きたくてしょうがないのですが、どの軍人さんも目が鋭くてとても恐いです。
わたしが話しかけようか悩んでいると、テントの中から、他の軍人さんとは違って、腕も足もすらっと細くて、日焼けもしていない軍人さんが出てきました。
この人なら恐くありません。わたしは声をかけようと駆け寄りました。
「いやさー、今年の優勝はグンジンさんたちに決まりだべ」
 しかし兄に先を越されました。農作業で培った俊足です。
 その軍人さんはとってもきれいな金色の髪を持っている方で、目の色は、今日の青空とよく似ています。
軍人さんは、兄の言葉に顔を明るくしました。
「そ、そうでありますか?」
「んだんだ〜。間違ぇねぇ」
 わたしは兄の言うとおりだと思いました。軍人さんたちが乗ってきた飛行船は、空を覆わんばかりの大きさです。これほどの大きさのものが、人によって作られたとはとても思えません。森の住人達も、これを見て驚いているに違いないです。
「そう言っていただけると嬉しいですね」
 軍人さんが蒼い眼を細めました。
 兄が思い出したように言います。
「おらぁ、クサカ・オリベだ。このちっこいのがアオイ。おらの妹」
 ちっこいは余計です。
 軍人さんが、ハッ、としたように姿勢を正しました。それは見事な気を付けで、定規で測ったように真っ直ぐです。
「私はエリンス・シュバルツと申します」
 えりんすさんはそう言って右手で敬礼しました。


 わたしと兄とえりんすさんは、お互いの国について色々なお話をしました。住む国が違えば、生活も考え方も、星座の見方も全然違うと言うことがよく分かって、とても楽しかったです。
「えりんすさん、おらの家に来ないべか? ご馳走するでよ」
 兄がそう切り出したとき、えりんすさんは目を軽く見開きました。わたしはえりんすさんがうなずくのを待っていました。えりんすさんからもっと色々なお話が聞きたかったし、わたしも小豆村の楽しい話をいっぱいしたかったからです。
「……大変嬉しいお申し出ですが、残念ながら私には任務があります。申し訳ありません」
 えりんすさんが深々と頭を下げました。兄も慌てて頭を下げました。
「いやぁ、そうだべなぁ。無理言っちまって、こちらこそ申し訳ねぇ」
 その時です。わたしと兄の後ろからです。
「エリンス一等兵! 集合だ!」
「了解! では、私はこれで失礼します」
「おぉ。お仕事頑張れよお」
「ありがとうございます」
 えりんすさんは、軍人さんたちのテントが立ち並ぶ所に入っていき、姿が見えなくなりました。


 太陽が一番高く昇る時間になりました。そろそろみんな、おなかを空かす頃合いです。わたしは母やおばちゃん達に混じり、お昼ご飯の準備のお手伝いをしていました。何百人と集まるお祭りですから、食事の準備はとても大掛かりです。
ものすごく大きな鍋で作られているのは、味噌汁です。アツアツの豆腐が浮かび、緑がまぶしいナガネギが味噌と一緒に流れています。海で取れたワカメがぷかぷかと漂っていました。
わたしが二十杯めの味噌汁を、おわんに入れた時のことでした。
「あんらぁ〜。アオイちゃん、あれ見てー」
 おばさんが丸々とした指で、インゲン豆連峰の頂上を指差しました。一見公国さんの飛行船とよく似た沢山の飛行船が、雲の上から現れたのです。それはだんだん、この会場に近づいてきていました。それはちょうど、わたしたちの気球と同じくらいの小さなものでした。
 わたしを含めて、邑人(むらびと)たちは思わず拍手をしました。とてもきれいに並んでいて、渡り鳥さんたちと見間違えそうだったからです。
 それと同時に、テントの中から軍人さんたちがぞろぞろと出てきて、ささっ、とわたしたちを取り囲むように散りました。誰も彼も手に銃を持っています。
 そして叫びました。
「ここは我々がセイアツした! 全員ブキを捨て、大人しくトウコウしろ! 怪しい動きをしたものはこの場でウチコロス!!」
 何を言っているのか良く分かりませんでしたが、なんだかとってもかっこいいです。
 大きな声で叫んだ人の隣に、えりんすさんがいました。目が合いましたが、えりんすさんは目をそらしてしまいました。
* Re: 128N戦記 ( No.2 )
日時: 2008/10/27 15:26 メンテ
名前: 一見

「大隊長、青豆村の制圧が完了しました。こちらの被害は無く村民は自宅待機、祭りの参加者は全員村役場に収容しました」
「よろしい、君は第二中隊に村の周囲に警戒線を引かせろ」
 副官のドロセルが敬礼を残して何処かへ駆けてゆく。それを目で追いながら、ふと広場の寒々しさに目が留まる。
 踏み散らされた飾りや崩れた屋台、そういった華やかさの残滓がいつの間にか伸びてきた曇天と相まって
かえって寂しさを掻き立てる。
 その広場を、一人の若い兵士が駆け寄ってくる。名を確か、エリンス=シュバルツといった筈だ。
折悪しく前の伝令が負傷で戦列を離れたので、今回の参加部隊から目に付いたのを引き抜いたのである。
 今回が初陣だといっていたが、先発隊に放り込まれても特に問題はなかったらしく、手に書類を持って駆け寄るその姿は一端の伝令だった。
「どうした、一等兵」
「失礼します。たった今村役場に収容した人物と来客者名簿を照らし合わせていた所、行方不明者が」
 折り目正しい敬礼と入れ替わりに差し出された書類を受け取り、開かれた頁に目を通す。
 様々な出身国や種族が羅列された書類の一項に目が留まる。

【水素妖精族:p共和国】

「水素妖精め、軽いの頭だけではなかったか」
 今回の作戦は極力秘密裏に進めることを前提に組まれている。まだ情報が漏れるのはうまい話ではない。
 しかも逃げたのがよりによって水素妖精である。足の速さは折り紙つきで、山深いこの地域ではとても追い切れる相手ではない。
「追跡部隊を編成しますか?」
「今からでは間に合わん。周辺部隊への通報と警備部隊へ警戒を厳にせよと伝えろ。これ以上情報を漏らすな」
「ハッ!」
 背筋に鉄棒でも差し込まれたような姿勢で敬礼を残して、彼もまた走り去っていった。
 ふと空を見上げる。
 雲のかかり出した山の向こうから、後続の本隊を乗せた飛行船団がゆっくりと迫っていた。
 しかし、目を引いたのはその船団の後ろ、重く圧し掛かる灰色の雲だった。
 晴天であったならば、見るものを圧倒してやまない公国軍の戦術航空船団の威容も、今はまるで鉛のような雲に追い立てられる
羊の群れにしか見えなかった。
「大隊長、警戒線の設営完了しました。後続隊が到着しますが誘導はどのように?」
 後ろを振り返ると、ドロセルがいつの間にか戻ってきていた。着替えたのか、祭りの時に来ていた礼装から
飾り気のない常装に身なりが変わっていた。
「それはヴェルナーに一任してある、奴の指示を仰げ。私も着替える」
 ドロセルにそれだけ言い残すと、すぐ横に係留されていた駆逐飛行船の船室に足を向ける。
 最後にもう一度顔を上げた時、大粒の雨が制帽を叩いた。それは次の瞬間、土砂降りへと変わり全てを水煙へ隠した。
 まるで不徳の行いを覆い隠そうと必死になっているような、重く冷たい雨だった。
* Re: 128N戦記 ( No.3 )
日時: 2008/11/20 19:02 メンテ
名前: はいどら

―――

「……以上が此処二日間出回っている、テロ組織の文書です」
そのまだ若くも聞こえる男の声はハイドラ皇国宮殿の最奥、元老達の会議室に良く響いた。
男は続ける。
「先日、ララカニア地区の清掃員がテロ組織の一員であることが判明し、その男から事実確認をしたと言うことです」
「それで……その男は如何致しましたか?」
「それが……」
眼鏡をかけた、四十頃の男の問いに彼は言葉を詰まらせた。
「……どうか致しましたか、ミキアス君?」
「兵の報告によると、宮殿につれてくる途中に死んだと、恐らく遅効性の毒を服用していたものと」
「厄介な物だ」
口髭を蓄えた、やや太り気味の男が答えた。
「確かに死を恐れないものは恐ろしい、だが逆に好都合だ、襲撃は明日の午前五時で間違いは無いのだな?」
「えぇ」
ミキアスが答えると、口ひげの男は愉快そうに笑う。
「たかがテロ組織、皇国の精鋭魔導装兵にかかれば即座に殲滅できよう、モルド、魔装具の準備は」
その問いに頬の痩せこけた男が答える。
「コットー、貴方が軍の準備をする以前より、この襲撃予告文書が届いた瞬間から私は研究員整備士全員に魔装具の準備をさせていたよ」
「ならば問題は無い」
その場にいる四人全員の視線が、最も年老いた老人に注がれる。
「……うむ、そなた達の良き用に致せ、神などと言う存在せぬ物をでっち上げる輩は根絶やしにし、今後の禍根を残さぬように」
「では……」
眼鏡をかけた男が立ち上がった。
「今日は皆さん、宮殿から出ないで、近衛兵から離れないようにしてください、それでは解散することに致しましょう」


老人が先に去り、ミキアスが去った後に、三人は再度席に着く。
「……それでは、本当の元老会議を始めましょう。
 テロ対策という名目で軍備も整いました、国民も私の洗脳を受け入れています、この点だけはテロ組織に感謝いたしましょう」
「それにしてもアーヴィン、本当の元老会議とは君も中々言うね、あの二人を最早同志とは見ないか」
「えぇ、あの御爺様は最早過去の栄光に縋り付く哀れな老人でしかありません、権力の抜け殻です。
 ミキアス君は私達に同意していますが、いつ戦争に反対するか分かりません、ならば私達で予め決めておくべきでしょう」
「兎にも角にも、だ」
コットーが口を開く。
「我が軍は確かに精鋭だ、しかしそれだけで全世界の相手は出来ん、まず最初に、何処を落とし何処と同盟を結ぶべきか」
「私はとりあえずは小豆村に駐留するのが良いと思っております」
モルドが嘲笑う。
「駐留か、占領の間違いではないのか、或いは支配」
「駐留だろうと占領だろうと、長い時間は人の意識に新たな常識を植えつけます、私の洗脳があれば自然と私達に従うようになりましょう。
 それと、その付近には一見公国、p太共和国があります、この二つは中々に大きな国、片方と手を組む、或いは不可侵の条約を結びましょう」
「なら、まずは強大な一見公国を潰すためにp太共和国と手を組むか」
コットーの言葉にアーヴィンは頭を振る。
「えぇ確かに、一見公国は強大ですが、所詮は人です、
 曰く、人の集まりが国となり、その中で何処にも属せず、しかし安住を求めるものが皇国の民となったと聞きます。
 それが皇国の民とするなら共和国の民は強さゆえに属する場所を得られなかった魔の者、そのような不確定要素は残すべきでは在りません」
「そうだなアーヴィン、更に言うなれば、公国の奴等は機械しか知らぬ、魔法、魔導に置いては私達の方が上である、技術は力だ」
「成る程」
暫く、沈黙。
「アーヴィン、コットー、元帥閣下の件は例の方向で?」
「……あぁ」
「話は纏まったようですね、ならば私達も解散いたしましょうか」




アルティ・ハイドール14世は崖の上に立ち、眼下に広がる海を眺めていた。
波が岩にぶつかり、砕け、引いては寄せ、渦を巻き、それが一筋の流れを形作る。
ローレライ、
海に住むと信じられる魔性の女、その名であり、この、幾多の船を沈める海域の名である。
『God bless』による皇国襲撃事件の前夜のことである。
「……出た方が、良いかなぁ」
そう、一人ごちた。




ハイドラ皇国、テロ襲撃三時間前。
「……元帥閣下、申し上げたいことがございます」
鎧を着た若い、精悍な体つきをした男がアルティに向かって言った。
此処は皇国宮殿最上階、元帥の寝室。
「何、タミア、言ってよ」
「では申し上げます、この塵野郎」
暫くの沈黙。
「……これはまた、軍部最高責任者に向かって物凄い口の聞き様」
「テロが襲撃すると言うのにふらふら出歩く危機感の無い最高責任者が何処に居ますか」
「此処に」
「此処にじゃない」
タミアがアルティに差し出すのは此処二日間街に配られている紙切れ。
『×日の午前五時に神の為に皇国に襲撃を仕掛ける、目的は元老、元帥の殺害、民間人は退避せよ』
「……いや、何で我輩が殺されるかなぁ」
「当然でしょう、建国者一族なんですから」
「……」
暫しの沈黙、後に、
「タミア」
「何ですか?」
「襲撃が始まったら外出するよ」
「……」
タミアは黙って縄を取り出す。
「では失礼してベッドに括り付けさせていただきます」
「うわ、酷い、結構本気なんですが」
「ですので本気で括り付けさせていただきます」
「いや、そういうことでなくてさ」
此処でアルティは真っ直ぐタミアの目を見る。
「テュールが我輩に伝えてくれた、軍の一部に不穏な動きがある、確証は無いけれども恐らく黒幕はコットーだ」

通常建国者一族は責任のみを軍に持つ、指揮権は持たない。
この国には神は存在しない、宗教と言うものは存在しない、それ故に皇国民の心のよりどころとして建国者一族には元帥と言う特別な役職が与えられる。
しかし権利を与えてしまえば国民から自由が消えるかもしれない、故に建国者一族は責任のみを持ち、権力は持たない。
国民から選ばれた30人の意見役と、その上に最高権力者である5人の元老、それがこの国の殆どを動かす。
しかしハイドールが14世になってから、少し事情が変わった。
現在の軍部最高責任者、アルティ・ハイドール14世は指揮権をも併せ持つ。
この軍の最高権力としての地位は元老と比べれば微々たる物ではあった。
しかしそれは、ここしばらくの間自分達だけで国を動かしてきた元老達の立場を揺らがせるには十分なものであった。
現在元老は殆ど変わることが無く、同じ人間が長い間続けている。
彼等元老とアルティ元帥の間には、見えないが深い溝があった。
元老には権力がある、しかし民の心、これは信仰と言ってもよいが、忠誠は元帥に偏っていた。
今まで閉鎖的であった皇国が、近いうちに他国に戦争を仕掛けると言う噂があり、民の心は元老から離れつつある。
そんな様々な状況が合わさり、現在、元老の中でもモルド、コットーが元帥に害意を持っているという話があった。

「……そうですか」
「だから、タミアには少し力を貸して欲しくて、ゴニョゴニョゴニョ……」


深夜、ドアを蹴破る音。
「元帥閣下、我々に大人しく従っていただきたい、さすれば命だけは救いましょう」
五人ほど、兵が元帥の寝室になだれ込む。
寝室の中央には外套を着たアルティの姿。
「うん、しかし我輩に従ってもらえたら君達の命だけは救うんだよね」
元帥の言葉を理解できずにいる兵士達に元帥は後ろを指差す、
其処には近衛部隊副隊長、タミア・サーフェスが剣を構えて立っている。


「……いやはや、御見事」
「皇国騎士として当然の勤めを果たしたまで」
当初は近衛部隊隊長、テュールを呼ぶ予定であったが、タミアが一人で結構といったので任せてみたならば、
見事に伸された五人の兵士。
テュールは元帥直属の近衛部隊に伝令を回している。
内容は、
『テロ後、元帥閣下の不在が分かり次第皇国を出ること、p太共和国付近にて集合』
「うーん、こうやって襲撃があったって事はこのままここにいたら」
「えぇ、危険かもしれません」
「この後もこういう事があるだろうし、我輩は外出するよ、我輩一人が国内で何かをしても何が変わるでもない、この国には外からの衝撃が必要かもしれない」
アルティは、元老が間もなく実行に移すだろう外国への進軍を考えながらそう言った。

寝室を出て一階まで足早に階段を下る、
出来るだけ元老の部屋から離れた方向を選んで、
そして近衛部隊の兵舎近くを選んで、
宮殿の裏口から皇国を囲むようにそびえるオリュンポス山脈に向けて、元帥とタミアは只管に走る。
火の手は見えない。
民衆の逃げ惑う声も聞こえない。
ただ剣の交わる音や魔導筒が火を吹く音、そして兵の叫び。
「……演習みたいだ」
アルティがそう言った。
「えぇ、彼等はある意味では本気で国を変えようとしているのかもしれません」
タミアがそう返す。
オリュンポスまで後僅か、
「元帥閣下、何処へお出かけですかな?」
声に、アルティとタミアは振り向いた。
「やぁコットー・ロヴァイ、我輩は命の危険を感じた故にちょっと外出するよ」
コットーを中心に、二十ほどの兵士、
全て元老の近衛兵であろう。
コットーは嘗て軍人だった頃の鎧を着ている。
「そうは行きませぬ、貴方様のような人気取りのくだらない若造を生かしておいては後々、何があるか分かりませぬ、
 貴方様を捕らえるために遣わせた五人は其の餓鬼にやられたようですが、今度は嘗ての三英雄の一人の私が直々に相手をいたしましょう」
コットーがトゥ・ハンデッドソードを片手で構える。
タミアも剣を構える。
力量的にも、物量的にも劣る戦いである。
「……元帥閣下、お逃げください」
タミアがアルティの方を向かずに、小声でつぶやく。
「ほほう、餓鬼一人で私を抑えれると」
暫くの沈黙、
タミアがコットーを睨む。
アルティが一歩後ずさると兵は二歩距離を詰める、
「……タミア、何分抑えれる」
「一分、いえ、三十秒が限度かと」
タミアが即答する、其の直後、
「いや、軽く十分は抑えれるな」
コットーたちの背後から声が届いた。
「タミア、元帥閣下をお守りする人が必要だ、お前は行け」
テュール・ドラウプニルが剣を構えて立っている。
コットーを間に挟み、アルティ、タミアとテュールが目を合わせた。
「……御無事で」
タミアが言うや否や、アルティとタミアは駆け出しテュールは鋭く踏み込み、切り上げる。
それを防ぐコットー。
「半数は奴等を追え、残り半数はこいつを捕らえるのに協力しろ!」
濁声が響く。
只管に駆ける、
後ろから足音が追いかける、
テュールの声も追いかける。
「コットー、貴様には皇国騎士の誇りは無いのかッ!」
タミアは追っ手の剣を叩き落としながら、只管に駆けた。





「……この後、如何いたしましょうか」
「p太共和国に身を寄せる、まぁ受け入れてくれるかどうかは知らないけど、とりあえずは身の置き所を確保してから、考えよう」
* Re: 128N戦記 ( No.4 )
日時: 2008/11/19 01:59 メンテ
名前: p太

p太共和国、国家党首私室にて
 こげ茶色の塊が、耳を削ぎ落とさんばかりに肉薄し、去って行く。
「いやはや、実に平和だ」
 それを、苦笑と共に見送ったイカワ=マロウ――今まさに死に瀕したはずの国家党首は、目の前をふわふわぷかぷかと呑気に浮遊している友人達に、静かに、少なくとも、窮屈な背広の背中に張り付いた冷や汗を気取られない程度にはゆったりと、語りかける。
「そうは思わないかな。黒沢さん、カワピ君」
 小豆アイスと即席コーヒーという、怪しい食べ合わせに舌鼓を打ちながらの男の言葉に、サングラスをかけた老人が答えた。
「そうですなぁ。ああ、ご党首。申し訳ないが、お茶を取って頂けますかな?」
 奥の瞳が見えないほどに色の強いサングラスの与えるどこか凶暴な印象を打ち消して余りあるほどに穏やかな笑みを浮かべる、中々の好々爺だった。首から下、人間にはあるべき胴体が丸ごと存在しない事を除けば。
「まぁな。蛞蝓王朝のムネキール四世の野郎と、漬物精霊の決闘のとばっちりが、何故かお前の私室にまで及ぶ程度なら許容範囲だ。後、気持ち悪くねぇか? 背中」
 黒沢老人のもとに湯飲みを運びかけていたマロウの手を止めたのは、カワピイタアイ、長すぎるのでカワピと親しまれている、眼鏡だった。
 赤い縁取りの四角い眼鏡が、部屋の中を飛び回りながら、嘲るように言葉を紡ぐ。
 他の多くの国の民にとっては驚くべき事ではあったのだろうが、彼らの住まう魔境の国、p太共和国においては、それらについて何かしら改まったコメントがされる事はない。
「いや、まぁ、何」
 誤魔化すように立ち上がったマロウが、とばっちり――何故か窓を突き破って飛んできて壁に突き刺さった、妙に鋭利に砥がれた漬物石を、指を切らないように慎重に慎重に引き抜いて、笑う。
「こんなものが飛んでくる程度に平和なこの日々の喜びを分かち合うため、もう少し茶菓子を増やそうと思うのだがどうだろう」
 笑みに照れたような色が混じる。対して、黒沢さんは無言で微笑み、カワピは、何処に存在するやも分からない声帯、そもそも声帯を使って喋っているかも怪しいのだが、とにかくそれに準じた器官で息をつく。
「別に良いがよ、国の外は案外平和じゃないらしいぜ。お前の好きな小豆村とかな」
 答えに、
「いや、聞いてないよ? どういうことかね?」
 きょとり、と目を丸めたマロウに、
「言ってないからな」
 そう、自信満々に、眼鏡は答えた。




「成程、一見公国ねぇ」
 近隣、いや、世界でも有数の軍事大国の名前を口の中で転がしながら、マロウは思案にふけっているようだった。
「どうせなら、すぐに言ってくれれば助かるんだろうけどねぇ」
「文字通り元素レベルの頭しかねぇ水素妖精相手に情報引っ張ったこの手腕を評価できないのかねぇ。いちいち意思の弱いお前じゃ、つられて馬鹿になるのがオチだぞきっと」
 いちいち偉そうな眼鏡の言葉を聞き流して、思案顔のマロウは、国民達が賑やかに生を謳歌する、自らの国に目を向けた。


 そして同じ頃。
 暗闇の領主たる魔神ウィムは、苛立っていた。
 山を一薙ぎで削り、地層を打ち貫き、鯨を腐らす太古の魔神たる自分が、コンビニで愛想笑いを振りまきながらレジ打ちをしている。無論、その事実に対する慢性的な苛立ちはある。
 だが、彼の領民であり、力の源である暗闇が殆ど存在しない昼間において、自身が大人しくしているべきである事も、彼は理解していた。
 彼の苛立ちの源は、今現在そこにはない。
 ならば何が腹立たしいのかといえば――
「うわぁ、また見事なまでの謎っぷり。原材料が何なのかも分からないし」
「いやだから、いい加減真面目に今後の方向性を――」
 若い男二人の「よそ者」だ。この国に溢れる様々な奇異を、わざわざ「奇異」として認識して物珍しそうに眺めているから間違いはあるまい。
 別に、見慣れない輩が闊歩している事に問題は無い。この国では珍しいことではない。
 問題は
(あの腐れノボリ野郎共、何時まで居座っているつもりだよ)
 どうも、この国の品物(萎びたグランパルタイガーウッズの唐揚げやら、ブリリアント龍也風ラーメンなど)が珍しいらしく、長い事歩き回っては、騒いでいる。
 一向に商品を買う素振りを見せずにだ。
 妙な因果でコンビニの店員に納まってから、彼も長い。冷やかしと客の区別程度ならある程度は付く。
 そしてアレは完全に黒だ。何かしら買ったとしても、割に合わない程度に歩き回って去って行く。他のお客様の迷惑も考えずに。
(この俺様の、古の魔神ウィム様の店でやらかすたぁ、中々良い度胸してるじゃねぇか。人族の腐れガキ共が)
 実際には、彼は単なるレジ打ちの店員だったし、相手は単なる冷やかし、それも容疑の段階に過ぎなかったのだが、圧倒的な力と、それに対する絶対的な自信を持つ故に、ある種の完璧主義者である彼の、店員としての怒りに火をつけたのだ。尤も、昼間の彼は、一人の非力な男に過ぎなかったが。
 それでも、断固とした決意と共に、彼は二人の「よそ者」に、声をかけることにした。
 その二人が、ハイドラ皇国より亡命したアルティ・ハイドール14世と、タミア・サーフェスだとは、無論彼は知る由も無かった。知っていても声をかけただろうが。




 同じ頃に、党首、マロウも決断を下す。
「そうだな。まーさんを探して伝えてきてくれないかな、黒沢さん。『小豆村が一見公国に占拠されようとしている。貴方もこれからは自由に会いに行けないし、戦争に使われる彼らも悲しむだろう』と」
「あい分かりました。そう伝えればよいのですな」
 ゆったりと飛び去った黒沢さんを見送りながら、ふざけた調子でカワピが声を上げる。
「良いのか? 絶対飛んでいくぞヘルビーンズドの野郎は。なぁ中立国党首」
 豆王ヘルビーンズド。豆を司り、豆の為なら時空を曲げる魔王にして、p太共和国の「豆」と名の付く農産物の全てを左右する存在の名前を出す赤縁眼鏡に対して、マロウは悪戯っぽく笑った。
「何、我が国民が実に自由気ままなのは、公国の方々とて知らないことじゃないさ。それに、豆の全てを司る彼に、国としては強く当たれるはずが無い。拗ねて豆を提供してくれなかったら事だ」
「詭弁だし、それが通じる相手か?」
 呆れたようなカワピに、マロウは小豆アイスをぺろりと舐めて見せた。
「本音を言うとねぇ。僕は大好きなんだ。小豆村の農作物から作られるお菓子が。公国の軍人方よりずっとね」

 そして歯車は回りだす。
* Re: 128N戦記 ( No.5 )
日時: 2009/05/29 21:54 メンテ
名前: ざ・T(♂)

少女の外見は明らかにおかしかった。
10代半ばの小柄な痩せ気味で、うっすら蒼みがかった白い肌にボロ布を纏めた服をワンピースのように着てはいるが、
その背中には所々角ばった一対の禍々しい黒羽が生え、爪は「これぞ人肉だ」と声高く主張するかのように鮮やかで毒々しいピンク色をしている。
しかし本人は自らの格好を全く気にする様子も無く、ただ一人元は何の為に作られたのか微塵も推測できないほど
建物としての息吹を失った古く大きい石柱の上に立ち、静かに眼を瞑って何かに集中していた。

妙な胸騒ぎを感じたのだ。

最初は近所に住まう誰かが自分を犯そうと、あるいは所持している食物を狙っているのだろうと思い、寝床にしている洞窟のような半地下の部屋の壁に吊るし干していた何かの肉を、
隠してあった枯れ草のなかから取りだして湧き水で洗い、寝床をある程度離れたところで即座に噛み千切り飲み込んだ上で吐息をあたりに振りまく。
自分の歌声が自分を含む全てを呪うならば、その前身である吐息にも軽い呪いの効果があるのではないかと考え、何度も練習して編み出したそのリズムの吐息は即席の地雷代わりに簡易的な防衛作として使用することが可能で触れた相手に電流のようなピリリとした痛みを与えて、怯ませる効果が期待できる。代償は体の一部に湧き上がる一時的なゆるい鈍痛のみなので、少女がよく使っている音色だった。

「…ッ…ッ」
自分の息を黙殺して周囲の気配を探る。
吐息の持続時間は残り数秒だが、特に焦ることもせず冷静に次使うべき音色・歌声をイメージしつつ腰を落とし、いつでも目線と逆の方向へ駆け出せる用意を忘れない。

「……?」
しかし何時まで経っても気配の主が現れること無く吐息は途切れ、代償たる痛みが左手の甲を侵し、その呪いの証として甲の表皮が一時的に灰暗色になるが一々気にしている暇は無い。
この場所では、生きるために全ての知恵を振り絞り全ての力を効率よく利用し、全ての集中力を生の方向へ傾けていなければ一日を生きることさえ困難なのだ。

『刺激の吐息』が、そのわずかな余韻さえ消して軽く一分は経つのに、周囲からはいつも通りねっとりと絡みつくような、それでいてどんよりとした殺気の類――気配しか感じられないが、
いつまで経っても胸騒ぎが一向に収まらず時間と共に少女の戸惑いの濃さが増して行く。
試しにその辺の石を適当な死角へと蹴り込んでみるが全く反応無し。

「……。」
さてどうしたものかと思い悩む。現状取ることが可能な手段は二つ、
一つは歌い、周囲に呪いを振りまいて空を飛び一気に離脱すること。
もう一つも歌い、前方に呪いを集めて強行突破する道。
何もせずにこのまま待ち続けるよりはどちらも生存率を高くできるが、どちらも苦痛を伴うし、この死角から出た瞬間に攻撃を受ける可能性も否定は出来ない。
前者を選んだとしても、小斧やらなにやらをを投げつけられた事は数知れないので姿見えない存在の攻撃が対地だけとは考えないのが常識。
……けれど、その方が攻撃を受ける可能性も低いし回避方向が大きく増えるか、そう少女は判断。
もう一度耳を澄ませて丁寧に気配を探ると、ゆっくりと息を吸い込みおなかに空気を溜め、口を開き、音程を紡ぎだす――。

「〜♪」

――傘で空飛ぶ魔女が歌う、煙突掃除人の歌をセレクト。

「♪〜Chim chiminey, chim chiminey, chim chim cher-ee!A sweep is as lucky, as lucky can be.」

歌の始まりと同時に少女の右手の指先からポタリ、ポタリ、とゆっくり一滴ずつ確かに血が滴り始める。全身擦り傷やら切り傷などの怪我の跡は数知れないが、
少なくとも、ものの10分、15分で出来たような新鮮な傷も無いのに、爪の先から赤い液体が少しずつにじみ出ては自身の色を主張していく。
それと同時に『歌』は『呪い』としての自分を主張し、少女自身を蝕むそれが周囲の命を喰らい始め、――その場に生えている雑草を見れば濃い青紫色の線が糸きれのように所々へ浮かんで――防御力の低いものから順に命を壊していた。

「♪〜Chim chiminey chim chiminey, chim chim cher-oo!」

歌が続く限り、生命への侵奪は止まらない。
少女の歌声は、それが『音』として伝わる限りどれだけ離れてもなお『呪い』としての力を遺憾なく発揮して、歌を聴くモノの命を削りとってゆく。
それこそ、悪魔が命に糸を括り付けて引きずり出しているかのように。

少女が歌に沿うよう自然に手を振り、指先の朱を弾き飛ばす。
その雫が地面に落着したとき、歌は一つの区切りを迎えた。

「♪〜Good luck will rub off when I shakes 'and with you.or blow me a kiss and that's lucky, too.」

その瞬間
「――ッ!!」
翼に意思を込めて一気に重力を無視する。
足が地を離れ、自分の体を浮かび上げる力の向きを調整し地上から3mほど浮かんだところで後方宙返りを打って周囲をすばやく観察するも、
顔を知っているやたら重傷痕だらけの男を一人見つけただけで終わってしまった。

「……。」
腑に落ちない。
少女の気持ちを代弁するなら、その一言だけで足りるだろう。
蛇足を追加するなら、「納得できない。」「ならば、この胸騒ぎは何故?」と。

悩んでいるうちに、彼のほうも自分に気づいたのか全ての指を失った両足で、されど全然それを気にさせないくらい普通に歩いてこちらに近づいてきた。
軽く話でもしようというのだろうか?
声帯がイカレている彼の声を聞き取るのには少々コツがいるのだが……。

どちらにしろ、彼のほうが私よりはるかに強い上に、この地域では珍しく顔見知りの人間を庇おうとする傾向が彼にはあるので、彼に近づいて損はないはず。

そう思うと、少女はもう一度後ろへ宙返りを打って、傷だらけの男に向けて降下していった。


* Re: 128N戦記 ( No.6 )
日時: 2008/12/26 21:27 メンテ
名前: MATU


星屑が煌めく水面が揺らめいた。
静かな夜の中、数艘の短艇が無作法なエンジン音を鳴り響かせて岸へと近づく。
短艇の上に乗る者たちは各々一丁のライフルを持ち、二列に並んで最前列の男を注視している。
短艇は順々にゆっくりと接岸。
同時に最前列の男は手を振った。
それを合図に、百人ほどの兵士たちが浜へと躍り出ていく。
男は、その光景をゆっくりと眺めていた。

* Re: 128N戦記 ( No.7 )
日時: 2008/12/26 21:54 メンテ
名前: MATU

上の投稿分は私のパスワード設定し忘れによってやってしまったものです。
ご迷惑おかけしてすいません。自力で削除できないのでないものとして扱って下さい。



星屑が煌めく水面が揺らめいた。
静かな夜の中、数艘の短艇が無作法なエンジン音を鳴り響かせて岸へと近づく。
短艇の上に乗る者たちは各々一丁のライフルを持ち、二列に並んで最前列の男を注視している。
短艇は順々にゆっくりと接岸。
同時に最前列の男は手を振った。
それを合図に、百人ほどの兵士たちが浜へと躍り出ていく。
男は、その光景をゆっくりと眺めていた。

さっと散った兵たちの中、ひときわ素早く動く一隊があった。
敵の反撃の有無を顧みずに味方の為に突撃を行う十人。
味方、総勢600人の安全を確保するべく鋭い切っ先となった彼ら先鋒隊の勇猛さは異様なものがある。
その内のひとり、迫田弥彦(さこた・やひこ)は初めて見る世界に気分を高揚させていた。
海の色、潮の香り、砂の踏み心地。
どれをとっても微妙に違うように彼には感じられた。
浜辺を一気に駆け抜け、それぞれ二人ひと組のペアに分かれる。
浜辺の先には防砂林の役割も果たしているのだろう、葉を広く茂らせる木々が壁のように植わっていた。
ペアの兵隊と追い越し追い越され走りながら、迫田は見るものすべてに心躍らせている。
極限状態に陥った兵隊は木の葉の擦れる音さえも敵襲かと思い、神経を擦り減らせ、
そしてまた更に小さな物事にさえも過剰に反応するようになるように、抜け出しようのない悪循環に陥るものだ。
だが迫田は齢24。むしろ、月明かりが創りだす微妙な陰影さえ楽しんでいる節があった。
有り余る元気と明るさを燃料に常に輝いているような男で、そんなこととはまったく無縁。
ましてや、これが自分の国の初めての外征ともなれば。
彼の健脚が踏み出す力強い一歩は、まさしく国家の大きな第一歩であった。

「総員、点呼!」
浜辺から離れ、少しひらけたところに縦隊になって綺麗に整列した部下を前に、声を張り上げた男。
男は思う。
この王国海軍陸戦隊・第68大隊の精強さは、世界に類を見ないのではないかと。
居留民保護の名目で来たのだから港を普通に使えたのだが、深夜だからという理由をつけて上陸作戦を行わせた。
そういうわけで敵がいないことが明らかな状況の、今回の上陸作戦でも、全員緊張を保ったまま演習以上の素早さで上陸・制圧を完了させた。
ただ惜しむらくはなぜ、と男は続けて思う。
「治武大隊長、訓示!」
男は一歩下がり、代わって背を丸め、顔を青ざめさせた軍人が前に出る。
なぜ、この大隊長は異様に船酔いに弱いのだろうかと、副隊長の男は思った。
「……治武巡兵(じぶ・じゅんぺい)だ。諸君、先の上陸作戦、よくやってくれた。我が軍の前途を占うにあたって、あの果敢さは非常に素晴らしいと言えるものと思う」
中佐の襟章をつけた男は静かに、しかし芯のはっきりした声でそう切り出す。
「かといって、諸君らを労っている時間はない。船内でも説明したように、今回の我々に課せられた任務は居留民保護などといったものではないからだ。
 我々の任務は、道を拓くことである。まだ政府は宣戦を布告していないが、既に小豆国に向って戦端を開くことは決定している。
 我々は、その全ての作戦の先鋒となるべく、今ここに居る。
 現実的な軍事行動の開始がいつになるかは分からないが、ともかく、我々の行動が様々なことに大きく関わっていくことを、諸君らには自覚しておいてもらいたい。
 戦争は国家の大事だ。各々、身勝手な行動を慎み、勝利の為に努め尽くせ。以上」
「はっ」
言い切り、兵たちの返事を聞くより早く治武は再び下がっていった。
訓示を述べていくにつれて生気を取り戻し、声にも軍人らしい張りが戻ってきた治武であったが、
しかし船酔いはそれ以上のものだった。
治武は急ごしらえの、簡単な幔幕しか張られていない本部に入り、パイプ椅子に腰を下ろす。
決して彼は無能な軍人ではない。
縁故でこんな大役を仰せつかったわけではない。
ただ、悲しいことに彼はどうにも船酔いに弱いだけなのだ。
胃の中のものをもどしたくなる衝動を抑え込みながら、治武は中隊長格を集めて指示を出す副隊長の言葉に耳を傾ける。
「第一から第四中隊は半豆村周辺の所定の位置に布陣し、通常の訓練を他にも測量訓練を行え。第五、第六中隊はここに残って上陸地点の確保を継続しろ」
簡潔に命令を述べ、すぐに散開させようとする副隊長を治武は止める。
「副隊長」
「は?」
「ここには二個中隊もいるまい。どちらかはここに残し、どちらかは西側の岬を抑えさせておけ」
治武の頭の中には、1分で叩き込んだ周辺の鮮明な地図が浮かび上がっていた。
ここは半豆村の東側にある長い砂浜。
後続部隊の上陸地点確保のためにはここを押さえておけば十分であったが、小豆国の中枢部は西側にある。
そうなると自然、いずれ攻めのぼる時のため、また敵の通信網を抑えるため、そちら側も確保しておく必要がある。
「は、しかし、そちら側には我が国民は居らず、行動の目的を問われた場合……」
「構わん。どうせ突っかかってはくるまいし、きたところで10日程の辛抱だ」
「は、了解しました。……では、第五中隊はここに残れ。第六中隊は西側へ向かえ」
「あぁ、それと」
「何ですか?」
「各隊からひとりずつ使える奴を選抜してこい。敵情を視察させる」
「敵情を?」
「半豆村の内部状況を調べさせるとともに、向こうのメディア越しに大陸の現状も。中央は『知らんでいい』と情報を寄越してくれないからな」
「……よいのでしょうか。そんなことをして」
「問題ない。我々は10日は孤軍だ。身を守るためにもそれくらいはいいだろう」
「は、それでは」
「頼む」
既に解散してしまった中隊長らを探しに副隊長は走りだす。
小出しに命令して少々悪いことをしてしまったかなと治武は思ったが、すぐに頭を切り替える。
立ち上がり、先ほど運び込まれてきた無線機に目を向ける。
「もう、使えるか?」
「は、まだ20分ほどかかります」
「そうか」
まだまだ数が少ない高性能な無線機。
数さえ揃っていれば無線機一台のために何枚もの書類を作り、何時間にも渡って談判することもなかったろう。
ひるがえっておそらく、これから治武が話す相手のところには、無線機など何台もあるのだろう。
「だが、それとこれとは話が違う」
引け目を感じることなどあるまい、と自分に治武は言い聞かせる。
そして、10年前の士官学校時代に習った一見公国の単語と文法を頭に思い浮かべる。
「ハンス=シュミット大佐か……さて、どう出てくるかな」
お世辞にも流暢とは言えなかったが、こんな意味のことを治武は一見公国の言葉で呟いた。
もう、酔いは全て引いていた。

「すいません。海がよく見えるホテルはどちらにありますか?」
拳銃も持たず街に入った迫田たちは、ほとんど一歩歩くたびに何かしら質問をされた。
まだ「どこから来たんですか?」「軍人さんなんですか?」「なんでそんな窮屈な格好をしているんですか?」などは分かるのだが、
中には、というよりも、ほとんどの質問はこのような、迫田たちに聞くことが間違っているようなものだった。
まともな通訳など居ず、かろうじてカタコトの言葉を喋れる奴が通訳換わりであったが、そいつもいい加減疲れて来たようだった。
仕方がないので一度休憩しようとなり、ジャンケンで負けたひとりが飲み物を買ってくる間、残りは適当な所に腰を下ろすことにした。
「……何なんだ、この国……」
早くも理想と現実の乖離っぷりに凹みそうになった迫田であったが、その迫田の肩を叩く者がいた。
またか、と眼を閉じてうつむいたままの迫田は思ったが、通訳の奴から聞いた質問の内容に眉をひそませる。
「えぇと、すいません。私みたいな顔をした人を見ませんでしたか? とさ」
何を言ってるんだお前は、と迫田は本気で思ったが、その黒沢とやらの姿を見て、ギョッとした。
迫田の顔の前には何もなく、少し目線をあげると、そこには生首が浮いていた。
そして、その中空の向こう側には、型をとって造られたかのように同じ顔の生首たちが、談笑しながら通りを闊歩していったのだった。
何なんだこの国はと、迫田は再び思うしかなかった。
* Re: 128N戦記 ( No.8 )
日時: 2009/03/11 18:41 メンテ
名前: ざ・T(♂)

この記事のpassは“128senki”に設定されています。
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                                               【銀嶺新聞広告欄より抜粋】

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《妖狐ハレアキラのぶらり旅 第23285回》(注釈は編集室によります)

 今日は百年ぶりに海騎士族(*1)の集落を訪れてみたのでおじゃる(*2)(場所は彼らの軍事の都合上、明かせないので悪しからずでおじゃる)。彼らはとても気高く総じて勇猛な種族でおじゃるが、とても喧嘩っ早く、日々己の名誉を高める事だけを考えているでおじゃる。しかし誰とも構わず喧嘩をふっかけるわけではなく、剣を持たない者に暴力を振るう事は決してないのでおじゃる。人間にたとえる所の騎士道精神というものでおじゃる。まさに海の騎士なのでおじゃる。彼らは人間がつけたその名前を、大層誇りに思っているようでおじゃる。武技に長けていないヒトは、怖がらず彼らと接してみてほしいでおじゃる。彼らは表情の変化は乏しいが、内に燃え上がるような厚い情を持っているので、良い友を得る事ができるはずでおじゃる。気をつけるべきは、武技に通じたヒトでおじゃる。まろの場合は、百年前の出来事(*3)で、不本意ながらすっかり彼らに騎士と認識されてしまったので、彼らとの会話一つ一つに細心の注意を払わなくてはいけないのでおじゃる。そんな状況で彼らと陸の常識で接してしまうと、トラブル続きでとてもトラベルなどしていられないのでおじゃる(*4)。
 海騎士族集落の名物と言えば、『動物プランクトン肉団子(陸のお客様向け)』でおじゃる。これは半豆村にて原価で出荷されている故、食べてみるとよろしいでおじゃる。少々値は張る(*5)が農林水産省で注文もできる故、財布に余裕のある方はそうするのも一興(*6)でおじゃる。
 さて、今回もそろそろお別れの文章量となったでおじゃる。次回は、まろとしては折角海に出たので、海跳び族(*7)の集落バンドウノムレを訪れるつもりでおじゃる。楽しみにするとよろしいでおじゃる。
 
 
*1 カジキの精霊を指します。
*2 ハレアキラさんは五百歳を超える妖狐なので、大陸棚程度の深度なら平気なのだそうです。
*3 海騎士族の鍛錬所で訓練を体験していたら、道場破りをしてしまったそうです。
*4 笑ってあげてください。
*5 内訳は原価+α(輸送費20%、注文通信費80%)です。詳しくは各自治体の情報管理部まで。
*6 どういう意味ですか!(農林水産大臣フジハラ)
*7 イルカの精霊を指します。


                                             【国営新聞『全国毎日小豆新聞(8/15)』文化面より】

小豆龍より注釈。8/15は一見公国が侵攻する前の年の日付です。
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「一見公国、小豆邑へ侵攻」

種月七日、西大陸の一見公国が隣国・小豆邑への越境侵攻作戦を開始したと、現地報道局が報じた。
報道局からの情報によると、公国軍は陸軍機械化歩兵部隊と空軍飛行船隊の混成師団を投入し、
既に小豆邑北部を掌握しつつあるとのこと。
この事態に東大陸相互安保同盟は共同で声明を発し、記者会見で
「世界の安寧を徒に揺るがす、極めて軽率な行動」と強い懸念を露わにした。
                                                  【東方報聞国際面より抜粋】

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<p太共和国:新聞統合体の記述?より>(常に変異するため、詳しい時系列不明)
「さぁ、今日も今日とて明日はどっちだ? 若さってなんだ? 俺は新聞Aだ!」
【それ、さっきも言ってなかった? と言うか君、Fじゃないんだ。そういう僕は新聞Bだけどさ】
 そして、一人地の文風の俺は新聞Cだ
「アレ? お前Bだったの? まぁいいや。景気どうよそこの不景気そうな兄ちゃん。ああいや、自分の国から逃げてきたんだから良い訳ねぇか。悪い悪い」
 不思議そうな顔をしているな。俺達が珍しいか。
【まぁ、空中に自国語が浮かんで寄ってきたら恐いよねぇ】
「なんだよう。新聞が空飛んじゃ悪いのかよう。こちとら統合新聞体だぞ? 大抵の場所には居るんだぞ。情報共有してんだぞ」
その割には互いの見分けはさっぱり付かんがな
【と言うか、新聞統合体じゃなかったっけ? それはともかくさ、ラムススさんの胸に顔をうずめたい】
突然なんだ
「と言うか、アレ実は竜だぞ」
【知ってるし、彼女のファンにそれを言ったら、消しゴムで擦られても文句言えない。そういう君らはどうなのさ、こう、埋めたい子、居る?」
何故うずめる限定なのだ
「あー、不景気そうな兄ちゃんの国とか、実は美人が多いらしいぞ?」
どの不景気そうな兄ちゃんだ
「だからあの不景気そうな兄ちゃんだよ。後はそうだな。変な羽が生えた可愛いのが居た。歌ってた」
【メンヘラ?】
「失礼な事を書くな。まぁ、危うく呪い殺されそうになったが」
【メンヘラ? いや君が】
「俺かよ。しっかし、女の子と言えば、公国はどうにかなんないかね」
まぁ、軍事国家だからな
【それにしたって、女将校の群れをけしかけてくるとか出来ないのかな。罵倒されたい踏まれたい】
「お前の何処を踏むんだよ」
何を連れてきても、アオイちゃんには勝てんがな。
「おま……ロリ――」
失敬な。確かにアオイちゃんは十歳だが。19歳のクリスも守備範囲内だ。
【誰さ】
「ああもう今更だけどこれ新聞でもなんでもねぇ。もう良いや。Dに繋ぐぞDに――」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ハイドラ皇国、町の中心掲示板、
隅に注意書きが張ってある、
『危険思想組織 God bless の情報を持つ者、知らせよ、褒章有』
中心には新聞らしきものが一枚、

『(元帥閣下亡命、無責任な行動)
 先日行方不明となった元帥閣下は以前の宗教団体の反乱の際に他国へと逃げていたことが判明、
 国家を導いていく立場の人間が国家を捨て国民を捨て己の保身のために欲望のままに動くことに我々は遺憾を隠せない、
 (元老出兵決断、閉鎖的外交を打破)
 我等が元老、コットー・ロヴァイ氏は軍隊も持たないと伝わる小豆惣の保護のための出兵を明らかにした、
 今まで外交に関しては閉鎖的であった我等が皇国ではあるが今回の出兵で我等が軍の強力さ、そして我等が皇国の友好的姿勢を見せれば他国との外交は良いスタートを切れるであろう』

道端に転がる新聞、恐らく掲示板に張ってあったものが破り取られたのだ、
幾つかの見出しが見える、

『(元帥閣下亡命の真相、元老の陰謀)
 (保護は名目、出兵の真相)
 (テュール氏の失踪、事件の気配)』

ソイル・エボニアはそのくしゃくしゃに丸められた新聞の残骸を拾い上げ、鬱々たる気分で帰宅した、
明日、彼は小豆惣へ旅出つ、

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    「東大陸にて戦乱起こる」
昨夜、外務省は「東大陸北部で一見公国軍が小豆邑に越境攻撃を開始した」と発表した。
具体的な戦況については「情報が伝わってきていない」と明言を避けたが、
部隊の派遣の可能性については「わが国民の保護の為の派遣ならばそれなりの部隊は準備してある」と答えた。
一見公国に参戦を要請された場合のことについては「たれらばの話にはコメントできない」とつっぱねた。
首相は本日中にも軍部高官や専門家を招いて緊急会議を開き、対応について話し合う予定。

 ────◎政府広告欄◎「明日のために国債を買おう!」────
 タンスの中に眠ってるそのお札、使わないでおくのはもったいない。
 是非国債を買い、お国の為にもあなたの為にも有効に使いましょう。
 お札一枚から始める御奉公、国債をさっそく今日から始めましょう。
 お問い合わせは近所の銀行またはお住まいの地方の役所担当窓口へ。

                                         【『大鶴新聞』国際欄より一部を抜粋】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
* 128N戦記 〜『三つの時と三つの場所』〜 ( No.9 )
日時: 2009/08/02 01:05 メンテ
名前: 小豆龍

 機械と魔術が融合した技術である魔導の国、ハイドラ皇国。陸路はオリュンポス山麗に阻まれ、海路は浮かばずの海、ローレライが横たわっている。国を囲む地形ゆえに、他国との交流はほとんどない。
 皇国は皇国なりに平穏であった。しかし一見公国の小豆村侵攻を境に、突如、国家元首アルティー・ハイドール十四世が行方をくらます。
同時に為政者達の暗躍が見え隠れし、何やら不穏な空気が漂い始めていた。


『元帥閣下亡命同日』


 ローレライからの海風が体重を奪い去る勢いで吹き荒れていた。その風に日々風化させられていく崖は、触れれば粉々になる鋭角の突起をあちこちから生やしている。ローレライの海風が何十年もかけて崖から掘り起こしたものだ。自然の芸術として名高く、皇国指定天然美術として保管が図られている。
 しかし今、その芸術はゴミカスのように蹴散らされ、粉々になっている。過去に幾度と行われた文化大革命の折に排斥された物品達のように。あるいは、芸術を解さない金満家が、似非鑑定士に言われて皇国指定級のツボを割るかのように。
「遠慮なく攻撃しろ! 畏敬足る元帥閣下が保ち給う『岩槍百景』が失われるのは、反乱分子共がよけるせいなのだからな!」
 管魔導装をまとった小柄な男、シウジー・サルドヴァルがそう言って、標的目掛けてバスタードソードを一閃させた。しかし敵は左手のマインゴーシュでシウジーの一撃をいなす。シウジーのバスタードソードは代わりに岩の芸術を粉々にする。つんのめるシウジーに、敵が軽やかなステップで右手のレイピアで突いてくる。
 シウジーは舌打ちをしてバスタードソードを手放しそれを避ける。武器を失ったシウジーに、敵が、今、とばかりに畳み掛けてきた。
「隊長!」
 そこに一人の青年が割って入る。ただ突き出されただけのショートソードを敵はワンテンポで後ろへかわし、次の瞬間には鋭く踏み込んで青年の首筋にレイピアの切っ先を突き入れている。
 青年は空を仰いで崩れ落ちた。
「阿呆が……!」
 シウジーは倒れゆく青年を迂回して敵に接近する。
 敵が引き抜いたレイピアをシウジーの頭部めがけて突き出してくる。レイピアの切っ先を血の尾が追っている。
 シウジーは首をすくめて頭部を狙った突きをかわした。シウジーの頬に青年の血が付着する。シウジーの頭上からくの字を描いて繰り出されたわき腹への斬撃を、シウジーは左腕の肉を絶たせながら防ぐ。
「なめるな小娘ぇえ!」
手を傷だらけにしながらレイピアの刃を掴み膝でへし折る。その上げた足を勢い良く地面に叩きつけ、一息の間で敵に接近した。敵が苦し紛れにマインゴーシュで突いてくる。シウジーはそれを右手の甲で逸らし、左の掌底を敵の腹に叩き込んだ。
しかしシウジーは、手の平に反発する無形の力場の感触を得る。敵の魔導装の発する力場。シウジーの掌底は敵に触れる程度にまで速度を落とされる。シウジーの掌底は敵の魔導装の装甲にそえられるだけだった。
シウジーの眼前で、敵が笑みを浮かべたようだった。
しかし敵は、すぐに表情を凍りつかせた。
シウジーの管魔導装が、かすかな高いうなりを上げていた。装甲の表面を走る紋様に光が灯る。光は紋様を伝って、シウジーの左腕に集中していく。
「イーゲル……」
シウジーが訓練で構築したイメージスイッチをパチリと押す。左腕に集まっていた光は掌に集中し、紋様の光を鮮やかにくっきり浮かび上がらせた。
「シュテルン!」
 解放。
「ぁぐ!」
 岩石の芸術をばらばらにしながら敵が吹き飛ぶ。マインゴーシュが宙を舞って地に突き立った。シウジーは構えをとかずに残心する。敵はあお向けに倒れたまま、身じろぎ一つしなかった。
 シウジーの管魔導装が蒸気を噴出す。全身を包む無形の力場が消失した。
「手こずらせやがって……!」
 シウジーが歯をむき出して怒りをあらわにする。捨てたバスタードソードを拾い、周りを見る。顔を蒼白にさせて血の海に沈んでいる部下が一人。怪我の具合を確認する。魔導装の隙間、顎の付け根辺りに穴が空いている。部下の目を覗き込むと瞳孔が開ききっていた。呼びかけてみるが反応はない。脳にまで達しているのか。敵ながら見事な腕だ。
複数の足音にシウジーは振り向く。
 八人の部下が、申し訳無さそうに走り寄ってくる所だった。その内の三人は、他の部下に肩を貸してもらっていた。シウジーは、駆け寄ってくる部下の人数が一人足りていない事に気がついた。
「の、逃しました……」
「ゲリラ戦法でこちらの戦力をけずり、包囲網を突破」
「加えて逃走跡のダミーを半径二キロにわたり五方向に」
「大分前から用意していたものと……」
 部下からの報告に、シウジーはまず目を見張った。状況を把握するのに数秒を費やす。敵の戦力は十一の魔導装兵だったはずだ。こちらは倍の戦力にあたる二十二の魔導装兵で対応した。それにも関わらず、逃したと部下は言っている。
「マーマンの隊はどうした?」
「我々より被害甚大。四名が死亡。三名が負傷で戦闘不能です」
「死亡した四名のうち三名は当たりを引いたのですが、全滅」
「我々が追ったのはいずれもダミーでした……」
 シウジーは嘆息する。ここで逃がしたと言う事は、もう奴らを追うことはできない。
 シウジーは歯軋りをする。友軍の失態が一番腹立たしい。不名誉の巻き添えを食うのはこちらなのだ。
 そしてこちらの被害が少ないのは、讒言の口実になる。失敗した連中は、他を貶めようと躍起になるものだ。怠慢だ、不忠だ、と言われかねない。しかも相手は近衛部隊の中でも特異な女だけの十人隊。イェルセニア・サーヴアリー率いる女部隊である。皇国男児として、元老院の方々に何と申し開きすればよいのか。
「た、隊長!」
 部下の一人が、シウジーの背後を指し示した。シウジーは慌てて振り返る。倒した敵の女が、這いながら崖の端に近づき、大荒れのローレライに身を投げようとしていた。
シウジーは慌てて駆け寄るが、力場を酷使した管魔導装は加速しない。シウジーの手が伸びる前に、女は崖の向こうに転がり、見えなくなる。遅まきながらシウジーが駆けよるが、彼の視界の中で女はローレライに落ち、瞬きの間に海の底へと消えていった。
「くそっ!」
 シウジーが傍らの天然芸術を蹴り飛ばす。
「た、隊長ぉ!」
「このままでは引き下がれませんよ!」
 声を裏返して勇ましい言葉を吐く部下達。暴風で作られた高波が足元で弾けている。飛び散った海水に、部下たちは思わず顔を背けた。
彼らは恐れている。町に戻った後に後ろ指を指されることを。女どもに籠絡されたのだとか、女だと思ってつい手心を加えたのだとか。最悪の場合、裏切りとして清浄の儀を受けることになるかもしれない。彼らは恐れている。
シウジーは苦虫を噛み潰した顔でローレライをにらみつける。眼下には浮かずの海が広がっている。
シウジーはふと、足元に落ちているレイピアの柄に気がついた。レイピアは、先の戦闘で己が破壊した敵の武装だ。持ち主は今やローレライの底。シウジーは魔女の存在など信じていなかったが、二度と浮かび上がれない場所である事は理解している。 
シウジーは柄だけのレイピアを拾い上げた。柄の家紋に自然と目が行った。
「オリーブの葉をくわえたシジュウカラ……ローレライに沈んだのはイェルセニア・サーヴァリーか!?」
 喜色を帯びたシウジーの声に、部下達が顔を上げる。
「そ、それが?」
「サーヴァリー家は、没落してはいるがあのサーフェスの傍系で名門だ。そしてイェルセニアは近衛十人隊の長」
 部下達が顔を見合わせて笑顔になった。
「俺は近衛十人隊の長、イェルセニア・サーヴァリーを討ち取った!」
 シウジーも笑みを浮かべていた。
「帰還するぞ!」
 十人の男がローレライの荒海の背を向ける。残されたのは、破壊され価値を失った芸術。
 荒風に吹き飛ばされ、岩の欠片がローレライに落ちていく。風化した岩は軽石のように海面に浮かぶ。波に救い上げられて崖に叩きつけられる。欠片がさらに砕けて散って飛んでいく。
 どこかに吹かれて飛んでいく。


──数日後

 『輸送艦《双名》異常なし』
                       
  陸上部隊が訓練を兼ねた上陸を行っている後、彼らを送り届けた輸送艦《双名(ふたな)》は帰路についていた。
 居留民の保護という名目であるため、他国から攻撃を受ける心配はしなくていい。上陸した彼らと違い気楽な任務となるだろう。
「定時報告。水測(ソナー)異常なし」「電探(レーダー)異常なし」「目視、異常なし!」「針路一○五を維持……」「両機関問題ありません」「両舷半速前進中であります」
 報告を受け取った輸送艦《双名》の艦長、多角三吉(たずみ・さぶきち)は重々しく頷く。
「異常なし、確認」
 輸送艦《双名》異常なし。
 
 
 月が沈み太陽が昇った。
《双名》は小豆村連合近海を抜けようとしていた。あと数分もすれば公海である。
 電探要員が安堵の息を吐いた。しかし隣の水測要員はどことなく残念そうだ。その様子を視界の隅で捕らえていた多角は、任務が終わったら別の者に水測を任せようと決めた。
 

 しかし危機的状況を真っ先に伝えたのは水測要員だった。
「水測、感! 潜水艦です! 」
 多角は顔を青くして怒鳴る。
「赤警報発令! 第二種戦闘配備!」
赤色警報が艦の全ての場所で甲高く鳴り響く。
「緊急事態! 緊急事態! 各自、第二種戦闘配備につけ。なお、これは訓練ではない! これは訓練ではない!」
 食事をとっていた者はカレーの上にスプーンを投げ出して、個室で休んでいた者は掛け布団を蹴飛ばして、便をたしている最中だった者はあたふたと済ませる。誰もが予想外の接敵に緊張していた。
「敵はどこだ!」
艦橋で多角三吉が声を張り上げた。水測要員が威勢よく答える。
「十時の方向、海中より潜水艦接近、型は不明。数は五です! 訂正! 六、七、八!?」
 しかし語尾は疑問に震えた。
「はっきりさせろ!」
「ふ、増え続けています! 十二、十三! 千mより続々と、物凄い速度です!」
 水測要員は全部で二十五もの振動を聞きとっていた。
「くっ、どの国の潜水艦だ!?」
 多角は指示も忘れて狼狽した。『双名』は民間のフェリーを接収して作られた急ごしらえだ。付け焼刃の武装しかしていない。潜水艦一隻の場合でもなす術もなく沈められてしまう。それが二十五とはこれいかに。もう必死だ。
しかし多角を動揺させているのは、二十五もの潜水艦を集中運用する国を想像した事による所が大きかった。
「駆逐級より小型と判明!」
「三百m、二百m。百……浮上してきます!!」
 多角は蒼白な顔で、左舷の海面を見た。波は穏やかだが、日光の全反射で海中はうかがえない。しかし黒い影が無数に浮かびあがっていた。時折泡が現れ弾けて消えていく。
「浮上!」
 海面に次々と大きな水柱が上がった。白く泡立った海水は艦橋と同じ高さにまでのぼってくる。多角は死を覚悟した。魚雷が着弾したのだと確信した。
 しかし艦は一切揺れる事もなく轟音を立てて沈没する事もなかった。代わりに、耳に心地よい高い音程の言葉が聞こえてきた。
「あんれ〜、ここどこだ〜?」
「すいませんハレアキラ様。場所間違えちゃった、テヘ」
「いやいや、大丈夫でおじゃるよ。ここは確かに半豆村の近くでおじゃる。わざわざ見送りすまぬのう」
「わー、褒められた褒められたー」
 ばっしゃん、ばっしゃんとまた水柱が上がった。その巨大な水柱を立てるもの正体を、多角は今度こそはっきりと見る事が出来た。それは艦橋よりも高い所を海面から飛び上がり、通って行った。故郷の近海にいるそれの何倍もの体躯を持つ、大きなイルカだ。
 巨大イルカが海中に飛び込んだ。また大きな水柱が上がる。
多角は海面を注意深く見詰め、イルカの数を数えた。二十四頭だった。
二十四頭のイルカは海面から顔を出し、きゅうきゅうきゅうと嬉しそうにさえずっている。その中心に多角は異様な物を見た。このイルカの群れに遭遇した時点で既に異様な状況であったが、それ以上に変なものが多角の目に入ってきたのだ。
それは海面に立っている妖しげな風貌の男であった。顔立ちは涼やかにはっきりしていて、眼光は暑苦しさと無縁のように怜悧だ。海中から出てきたばかりであるのに、男の真っ白な古式の服は水滴一つこぼしていなかった。
男は《双名》を、目を細めて見ているようだった。多角はふと、男と目が合ったような気がした。いやそんなまさか。こんな遠くからの視線に気づいたわけではあるまい。
屋外とは厚い壁とガラスで分けられているのにも関わらず、巨大イルカと男の会話はよく聞こえた。
「って言うかハレアキラ様―、あの鉄の塊、何なんでしょうかー?」
「まー、軍艦でおじゃろう。見た所、武装は貧弱でおじゃるし、輸送艦のようじゃのう」
「ユソウカンってなんですかー?」
「たくさんの人間や食べ物や武器を運ぶ船の事でおじゃる」
「へー、武器はちょっと怖いな〜」
「なんだぁ、弱虫―!」
「だってだってぇ、ケンカはよくないじゃないかー」
「ねえハレアキラ様―、なんでそのユソウカンがこんな場所にあるんですかー?」
「そればかりは見当もつかないでおじゃる。でもあれはきっとMATUの所属でおじゃろう。それは分かる」
 唐突に男が右手を上げてゆっくりと左右に振った。それは明らかに多角に向けられたものだった。
男の口元には妖艶な笑みが浮かべられている。
「えーっ!? ハレアキラ様にも分からないことってあるんですかー!?」
「ホッホッホ。あるともあるとも。それはもうたくさんでおじゃる。世界はとっても広いのでおじゃるよ?」
「ハレアキラ様―ハレアキラ様―、マツってどこにあるんですかー?」
「ここからずうーっとあっちにいった所にある島国でおじゃる。まろも一度は行ってみたいものじゃのう」
 多角は唖然とその光景を見ていた。そして、あれだけのイルカ達が襲ってきた時、この艦は果たして大丈夫だろうか、と益にもならない事を考えていた。
「では、まろはそろそろ陸に向かう事にするでおじゃる。Rermekdoの皆の衆、また会おう、でおじゃる」
「ばいば〜い!」「また遊ぼうねっ!!」「さよなら……ぐすん」「うぇ〜ん……」「ぶぁれあぎらざまぁぁあああ!」「うぐっしょおん!」「はっくしょん!」「今日の晩御飯なんだっけ?」「今度は僕達が陸に遊びにいきまぁっす!」「いや、ムリだろ物理的に」「無理だと思うから無理なんだ!」「うぉおお、俺も協力するぜぇええ!!」
 巨大イルカ達はけたたましくさえずりながら、瞬く間に海へと消えていってしまった。あれほど騒がしかった海は、今度は耳に痛い静寂を放っていた。
「さて、と」
 多角は背後の声に驚いた。振り向くとそこには先ほどまで海上に立っていた男が、僅かに口角を上げ居るではないか。
「え、なっ、え!?」
 艦橋要員の全員が対応に四苦八苦していた。指をさせたのは良い方で、多くの者は口をあんぐりあけて茫然としていた。腰を抜かしている者もいる。おそらく腰を抜かした彼らは、床から生えるようにして現れたハレアキラを目撃したに違いない。
「あ、あんたは何者だ!」
「まろは妖狐ハレアキラ。全国毎日小豆新聞にて記者などをやりながらぶらり旅をしている者でおじゃる」
「お、おじゃるぅ?」
「む、まろのおじゃるにケチつけるでおじゃるか? そんな輩にはこうしてくれるでおじゃる」
 ハレアキラは、ぷいっ、と手首を曲げて多角の頭を叩いた。「ひっ!」と多角は悲鳴を上げるが、単に額を叩かれただけである事にすぐに気付いた。冷や汗を流しつつ、こほん、と咳払いをする。
「して、ハレアキラ殿はなんの用でここにきたのであろうか、でおじゃる」
 沈黙。
 異様な状況の片隅で失笑が聞こえた。
「な、なんだこりゃぁああああ、でおじゃる」
「ほっほっほ。愉快愉快」
「え、でおじゃる。む、でおじゃる。ぬ、でおじゃる」
「ほっほっほっほ!」
 ハレアキラは扇子で口元を隠しながら目尻に涙を浮かべて笑っている。多角は顔を真っ赤にしながらハレアキラに詰め寄った。
「元に戻せぇぇえええ、でおじゃる」
「まろのするいくつかの質問に答えてくれたら考えてもよいでおじゃる」
「わ、分かった、でおじゃる」
「ヌシの名前はなんでおじゃるか?」
「多角三吉、でおじゃる」
「ほほぉ」
 ハレアキラはそう言って、また、ぷいっ、と手首を曲げて多角の額を叩いた。
「ほれ、望み通り」
「え……? あ! おおう!」
多角の予想に反し、ハレアキラを名乗る謎の男はあっさりとおじゃるの呪いを解いてくれた。多角は恥も外聞もなく喜んだ。その様子をハレアキラが笑みを浮かべたまま見ている。
「では多角殿。ここでもう一つ質問といこう」
「……軍機にかかわる事は申し上げられないと事前に言っておこう、ハレアキラ殿」
「はい、と言え。多角三吉」
「はい」
 艦橋要員も驚いたが、一番驚いたのは本人だった。
「か、艦長、何という事を! 祖国を裏切るつもりですか!」
「え、な、わたしじゃない! 勝手に口が──」
「この船は何をしに小豆村に向かった?」
「答えられない!!」
「この船は何をしに小豆村に向かった? 答えろ多角三吉」
「MATUの先遣隊を半豆村に──うぐぅっむふむふぅ」
 多角は両手で口を塞いだ。口は正確に答えを刻んでいるが音となっては聞こえてこない。口の動きが止まる。多角は荒い息をぜいぜいと吐いた。顔面が蒼白だ。
しかしハレアキラは聞こえなかったのにもかかわらず微笑んでいた。
「ふむ、ではさっさと帰った方がよいでおじゃろうのう。皆の者、これだけは絶対に見ては駄目だぞ」
 ハレアキラが右手を高々と掲げる。人間の悲しい性だろうか、ほんの一瞬だったが全員の視線がそこには集まった。その瞬間、ぱちり、とハレアキラは指をならす。多角を含む艦橋要員が全員、ぱたりと倒れ気を失った。
「まあ、心配をせずとも、すぐに目を覚ますでおじゃる」
 ハレアキラはそう言って姿をかき消した。屋内であるのにも関わらず、かすかに風がなびいた。


 多角達は目を覚ました。慌てて眼をこすり、航海中に寝ていた自分を疑う。周りを見ると艦橋要員も今、目を覚ました所のようだ。彼らもぼんやりと周りを見渡していた。
 その内の一人が時計を見て、はっ、とする。
「定時報告。水測(ソナー)異常なし」「電探(レーダー)異常なし」「目視、異常なし!」「針路一○五を維持……」「両機関問題ありません」「両舷半速前進中であります」
 多角は頷いた。全てが正常であった。
 多角はさっきまでの異様な感覚を頭の片隅に置き、重々しく応える。
「現状に異常なし、確認」
 輸送艦《双名》異常なし。
 言ってから多角は、さっきまで何をやっていたか考えを巡らせる。そして一つの記憶を思い出す事が出来た。
──任務が終わったら、あの水測要員を別の者に代えなければならんな。
 きちんとした部下を見出すのは大変なものだ、と多角は思った。



──半日前

『眠らぬ村』

「えぇと、『すいません。私みたいな顔をした人を見ませんでしたか』とさ」
 迫田は、何を言っているんだお前は、と口にしかけた。だが通訳がおっかなびっくり話しているそいつを見て今度はあんぐりと口をあけた。まるで怨霊のとりついた生首の如くの生き物がそこにはいる。生首は、黒沢です、と名乗った。その後ろをさらにたくさんの生首が通り過ぎていく。顔もそっくりで頭痛がしてくる。
 迫田は無言で、目の前の生首に後ろを示してやった。
 生首は異国の言葉で歓声を上げた。通訳が「お礼を言っている」と言った。
「アリガトー」
 片言のMATU語でもお礼を言われた。目の前の生首が沢山の生首に合流する所を、迫田は眉間を抑えながら見送った。


 半豆村の探索を終えた迫田達はキャンプへの帰路に就こうとしていた。
半豆村は眠らない街だという事を迫田達は知ることになった。夜だと言うのに出歩く人々は多く、道路にも頻繁に馬車が通った。よく分からない生き物が引く荷車も行き来している。ものすごい速度だった。最初は交通規則が分からず苦労した。
ホテル探しは断念するしかなかった。「ホテルって食べ物か?」と道路脇に停まっていた膝丈ほどの対空戦車に言われたのが原因だった。迫田達は冷や汗をかいた。小豆村連合がこれほどの小型戦車を作る技術を持っているとは思っていなかったからだ。
ハッチが開いてゴーグルをしたネズミが出てきた。
「いや、力になれなくてすまんな」
対空戦車の砲塔は迫田達にむけられていてどうも落ち着かなかった。ネズミはそれに気がついたようだった。
「あ、これは商売道具なんだ。ちょっと待ってろよ」
ネズミはそう言ってハッチを閉める。やがて砲塔から軽快な音楽が流れてきて『う〜まいチーズ、う〜まいチーズ、う〜まいチーズはネズミーカンパニ〜♪』という歌が聞こえてきた。迫田達は一斉に脱力した。対空戦車ではなく宣伝カーだった。
「じゃ、俺はこれを会社に置いてこなくちゃいかんからな。お前さん達も仕事頑張れよ」と言ってチーズ会社の宣伝カーは去っていった。
それ以降、どうやら迫田達の事は半豆村のほとんどに知れ渡ったらしい。道々で出会う人々はあいさつしかせず、質問をしてくる事はなかった。ただ、例外なく全員に挨拶されるのには辟易した。よく観察してみると、村人同士では笑顔の交換か目礼ですませるようだった。迫田達は、自分達はお客さん扱いされているのかもしれないと考えた。質問地獄にあった行きもそうだが、迫田達はここの住民に無視された覚えがまるでなかった。
 それどころか、
「まあまあまあ、こんばんは! あなたたちマツの兵隊さんでしょう? 兵隊さんって体が資本よねぇ〜。そうだオネエサン、これあげちゃう!」
 奇天烈な店の前に立っていたニューハーフの中年から大量の大根をもらったり、
「あぁん? てめぇら街を歩く時は気をつけろや! 深夜でも道路にゃあ車が走ってんだよ! 死にたくなかったら交通規則は守れやぁああ! なんだぁ、しけたツラしやがって。ウン千万もかけて育てた子供がぽっくり死んじまったら親が泣くだろうがぁあああ! 最悪の親不孝だ馬鹿野郎ぉおおお!」
 明らかに迫田達より年下の不良から信号無視を注意されたり、
「おっと失礼。肩を痛めませんでしたか? このとおりの体ですからちょっとぶつかっただけでも大けがさせてしまうんですよ。いやあ、あなた方が軍人でよかった。あ、そんな、よかっただなんてなんて失礼な事を……本当に申し訳ありませんでした」
 見上げるほどに大きい二足歩行の虎に謝られたり、様々だ。
段々迫田達の表情から険が抜けていった。いつしか迫田達の頬は緩み、暖かい眼差しで村の人々を眺めるようになっていた。都会のような街並みなのになぜ村と呼ばれているのだろう、という疑問もどうでもよくなってしまった。
海からの潮風は優しく迫田達を包んでいる。天頂から見下ろしている月は銀色。その月光に物を添えたような淡い光しか半豆村の街並みは発していなかった。目を傷めるようなけばけばしい色はどこにもないのだ。それでいて周りを見るのに苦労しない、適度な暗さがそこにはある。この村では五感全てが暖かかくなるようだった。
街を抜けようとする頃、通訳係がある建物を指差して、あっ! と言った。大きな木製の看板が掲げてあって、何やら文字が書いてあった。
小豆村連合の言葉に訳すと、そこにはこう書いてある。
『民宿と海の家のお稲荷』と。


 真夜中の突然の客にも関わらず、女将は笑顔で迫田達を出迎えた。女将はなんとも言えない超絶な美人だった。女に飢える迫田達の腰を抜かすのには十分過ぎる程だった。
 迫田達は三階建ての建物で一番上の部屋を借りる事にした。
「外国のお人にとっては、小豆村の夜は暗すぎたんじゃありませんか?」
 いえいえ、と迫田達は首を振る。
「けばけばしい電光がなくて穏やかでとても良いと思います」
「わあ、そう言ってもらえると嬉しいです。自分の住んでいる村が褒められるのってとっても嬉しい事なんですよ」
 手で口元隠して艶やかに笑う女将に対して迫田達は劣情にかられることはなかった。自分達には手の届かない存在だとはっきりと分かるからだ。高嶺の花どころか天空の星だ。彼女と恋仲になれる人間はいないに違いない。
 女将がいなくなった後、迫田達は誰が隊長に報告をしに行くかで大いにもめた。結局一番年下が行くという事になり、役目は迫田になった。
迫田は早く宿に帰るために全速力でキャンプのある海岸に向かった。


迫田は任務完了の意を大隊の副隊長に伝えた。民宿の位置を地図で示し、街の様子を語って聞かせる。副隊長は途端に棘がなくなった迫田を見て驚いた。
「おい、何があった」
「お話しした事以外の事は何もありません」
 上官は気持ち悪い汗をかきながら迫田を改めて見た。いつもなら硬い口調で背筋をピンと伸ばしてハキハキと答えるMATUの隊員が、礼儀正しい姿勢はしているものの、ふ抜けたような感じでしゃべるのである。
「どうした」
 治武が本部から出てきて副隊長に近寄り声をかけた。副隊長、迫田共々上官に敬礼するが、気合の差は明らかに違っていた。
「何だ、こいつは」
 治武が軽蔑の目で迫田を見る。迫田はぴん、と背筋を伸ばして真面目にしているが、明らかに方向性が違う真面目さだった。気合が無く、殺気が無く、緊張感が無く、まるで満腹のライオンのような雰囲気がそこにはあった。
「迫田弥彦一等兵であります」
 副隊長が答える。
「偵察の任務に赴かせた者です」
「……何があった?」
 副隊長と同じ事を治武が口にする。
「お話しした事以外は何もありませんでした」
 敬礼したまま迫田が答える。その瞬間、治武は迫田の顔面に鉄拳を見舞っていた。迫田はぶっ飛んで砂浜に転がる。砂がそのすさまじさを刻んでいった。
「何故あんなふ抜けた奴がこの大隊にいる?」
 副隊長は治武の怒りにたじろぎながら答える。
「少々無謀な傾向がありますが、迫田一等兵は海軍陸戦隊の名に恥じぬ優秀な兵士です。彼の身体能力は大したものです。しかし任務に送り出した時と今では雰囲気が違いすぎました。これは異常です」
 副隊長は軽く混乱しながら言葉を重ねる。治武は聞き終わったあと難しい顔をして、殴り飛ばした迫田に近づいていった。迫田は既に立ち上がっていた。
 迫田は近づいてくる治武に気がついたようだった。
「中佐殿!」
 鼻血を流しながら迫田が敬礼する。声に張りが戻っていた。目からは闘志が燃えて見える。まさにMATUの軍人に相応しい気迫が伝わってきた。
 治武は一通り迫田をねぎらう。迫田は既に任務前の迫田に戻っていた。
迫田を民宿に戻した後、治武は本部に戻る。そして思案を巡らせる。
 ──一体、何があった……?
 答えは出す事はできなかったが、治武は不安材料が増えた事を悟った。
* 128N戦記 『駐屯とは、その地に住まうことである』 ( No.10 )
日時: 2011/05/06(金) 12:38:05 メンテ
名前: 一見

「わしが青豆邑の長、ズンダスケでございますだ」
 飛行船団の旗艦「バルガン」の船長室に入ってきたのは、小柄ながら緊縮という言葉を連想させる翁だった。

 両脇を衛兵に固められてなお、老人の仕草には媚びる風がなかった。肝が据わっているのか、あるいは現状を理解しないほどに耄碌しているのか、縦横に走る皺の奥で光を残す目からは読み取れない。
「はじめまして邑長。私は一見公国陸軍、外征第二軍先遣師団隷下第一大隊指揮官、ベルナルド=ヒッコリー大佐だ。どうぞ掛けてくれ」
 下らない威圧の通じる人間ではない。そう考えた私は、小机を挟んで向かいの椅子を示しながら、姿勢を正す。
 老人は椅子の上に正座するなり、低く錆びた声で口火を切った。
「ベゥナルドさん、祭りの最中に突然家に押し込められ、邑の者らはみんなみんな怯えとります。加えて此ん度のお呼び付け、一体なにゆえのことでござんしょう?」
「まずは我々の非礼を詫びよう。だが、決してこの邑に害意があっての行いではない事を伝えたかったのだ。それともう一つ」
 衛兵たちを手振りで部屋の隅に追いやり、この小さな老人に顔を寄せる。
「この先に双方が平和に過ごす為に、幾つかお願いしたい事がある」
「ほぉ、お願いと申されますか」
「そうだ。まず一つは、しばらくこの邑に我々は駐屯、つまり御厄介になるわけだが、その間、いらぬ諍いは避けたい。よって、我々が指定した区画には、邑民の諸君には立ち入らないよう、あなたから伝えてほしい」
「……」
「第二に、この邑を離れる場合は必ず我々に一声かけていただきたい。場所によっては、こちらで送迎の車を出す。これはここに住む全員に殊更徹底してもらいたい」
「・・・・・・」
「第三。これは目下のところ任意ではあるが、我々の求め応じる所に従い、食料・労働力の提供を依頼したい。協力していただけた場合は、我々一見公国軍も相応の対価を以て、これに報いる用意がある」
 以上の三点、ご了承いただけないだろうか、と言った私の前で、老人は腕組みをして静かに唸った。

「えぐつか(幾つか)、お尋ねしてもよかですかな」
 老人は腕組みを解くと、まっすぐこちらを見つめて言った。
「聞こう」
「あんさは、どうしたってここに陣屋を置きなさるんじゃろうが、それは構わん」
 ただ、とズンダスケが指を立てる。
「わしらの田畑や、溜池を潰されちゃかなわん。あんさらが集まれるような広場は、こっちでようよう設えるから、どうかそこに収めてはもらえんかな」
「努力しよう」
「次に、わしらに邑を出るな、とおっさるがな。わしらの中にゃ、山に“たつき”をもつ者もおれば、急の病で山向こうの薬師様のとこさへ走らねばいけん者もおる。そういう者も、いちいちあんさらに言わねば駄目か?」
「答えよう。いかなる場合も、申請をしていただきたい。ただし、代理の人間に誰がどこへ何をしに、そしていつ帰るかを速やかに言伝てくれれば、多少は融通もきかせよう。それと急病人とのことだが」
 私は執務机の棚から、書類束を一つ抜きだすと、「作戦参加者名簿:医療技術班」の項を開いて見せた。
「我々は優れた医療班を同行させている。もし急病人が出れば、喜んで医者を提供する準備がある」
「しかしなぁ、ベゥナルドさん。わしらの中には、薬師様でなけりゃいけん、という者もおりましてな」
「なら尚の事だよ、邑長。人の足の何倍も速く走れる車があるんだ。多少狭かろうが荒れてようが、どこにでも搬送しよう」
「・・・・・・」
 老人の顔に、一瞬唖然としたものがよぎったが、すぐに気を取り直して、次の質問が出てくる。
「最後の『お願い』ちゅうことですがな」
 老人は正座から胡坐に足を組みかえると、やや噛みつくような早口でまくしたてた。
「食べ物は都合しやしょう。だが、人を寄越せというのは、つまり、その、おなごを出せと申すのか!」
 突然の激昂に衛兵たちが反応するが、手をかざして制止する。
 邑の女子供を、お前たちの慰み者にはさせない。私は老人のはやとちりな正義感が、とても好ましかった。
 この会談で初めて笑顔を浮かべると、両手を開いて老人を宥めた。
「何がおかしかっ!」
「いや、失礼した邑長。あなたの憂慮はもっともだ。お答えしよう。我々は娼婦を提供しろといったのではないんだ。こちらの設営などに、力のある働き手を貸してほしい、つまりそういうことなのだよ」
 まだ興奮しているのだろう。微かに口角を震わせる老人から距離をとるように、椅子に深く腰掛けると、ちょうどエリンス上等兵が、盆にアルミの茶器を載せて給仕に来た。
「邑長、他に何か質問はおありかな。なければ、茶でも飲みながら答えを聞かせてほしい。入れ、上等兵」
「や、茶はいらんですがな」
 老人は少しの間、目を閉じていたが、やがて顔を上げると、覚悟と諦めのついた様子で口を開いた。
「わしらに、選ぶことはできますまいな」
「あなたがそう思うなら。ただ、我々がこの邑を潰しに来たわけではない、そこは勘違いしないでほしい」
「……わかり申した。今あった話、確かに邑の者に聞かせやしょう」
「理解を得られて嬉しく思うよ、邑長。衛兵、外までお送りしろ。ああ、そうだ」
 早々に背中を向けて立ち去ろうとする邑長を呼びとめると、老人は怪訝な顔で振り返った。
「今後、我々がこの邑で過ごしていく上で、お互いに話し合う必要が生じるだろう。だから邑長、あなたはいつでもここに入ってきてくれて構わない。それと、我が軍の規律は一糸乱れぬものと自負しているが、もし万が一にも将兵が迷惑をお掛けした時は、遠慮なく私の所に来てくれ。然るべき懲罰を加える」
 私は、せめてこの申し出で愛想笑いの一つも引き出せるかと、内心期待していた。
 しかし、老人の顔は決して緩むことなく、黙って首を垂れるなり、帰ってしまった。

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